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Jintec Special Dialog6

ジンテック つなタイ-対談

Let’s Move On!‐先に進もう‐

人と人をつなぎ、新しい価値共創から、幸福を追求する。(ジンテック 企業理念)

Jintec Special Dialog “Let’s Move On!-先に進もう-”は、各分野で活躍する識者をゲストにお招きし、当社 代表取締役 柳 秀樹と共に、これからの組織や社会、世界、さらには人々の生き方や幸福について深く掘り下げ、「本当に大切なもの」を浮き彫りにしていく対談シリーズです。

「皆さんと共に、すべての人が幸福な、新しい世界を創造していきたい。」

私たちはそう願っています。Let’s Move On !

Let’s Move On!‐先に進もう‐Dialog 6

山形県 西川町長 菅野 大志 氏
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株式会社ジンテック 代表取締役 柳 秀樹

■ファシリテーター:株式会社ジンテック CINO 日下 智晴 氏
■対談日 2022年12月12日

第6回 Jintec Special Dialogのゲストは、金融庁、内閣官房のまち・ひと・しごと創生本部事務局などで地方創生に深く関わった後、故郷の人口減少への危機感から山形県西川町長へと転身した菅野大志氏。「チームでやり遂げる歓びが活動の源泉」と語る菅野氏。利他から生まれるネットワーク、さらには価値共創について当社 代表取締役 柳 秀樹と語り合いました。


つながりは代えがたい財産

日下:お二人の出会いは2019年でしたよね。

菅野:そうですね。

日下:菅野くんはチームを立ち上げて全国的に飛び回り始めた頃で。熊本で初めてお会いになったと聞いていますが。

柳:熊本の信用保証協会さんのセミナーに伺った時に初めて菅野さんとお会いして、名刺交換をしたら「あ、ジンテックだ」と言われました笑。

菅野:ジンテックさんは地域金融変革運動体の事務局の会社という認識があったんです。たしか2018年だったと思うんですが、地域金融変革運動体がまだあまり知られていない頃に、どんな会なのかを仕事で調べることがあって。

日下:その後に少しずつお付き合いが深まっていったんですね。

菅野:そうですね。地域課題解決支援チームを立ち上げて、遠藤さん(※)とちいきん会を開催するようになって。そこに柳さんにご参加いただいたんですが、とても助かりました。金融庁の中にいると知りあえないような面白い金融マンをご存じで、柳さんのご紹介で私のネットワークが一気にわっと広まったんです。例えば夏の納涼会ですね。
※元金融庁長官 遠藤 俊英氏

柳:そうですね。当社のユーザー会などにも来てもらいました。バトンはいろんな方に受け渡しますが、受け取る人のキャラクターもあると思うんです。菅野さんはすぐに、ばっと広がっていきますよね。

菅野:金融機関、あるいは地域がどんなことで困っているか、どんな面白い人がいるかを直接聞けて、やりとりができるようになったのがこのネットワークの本当にありがたいところです。それこそがまさに、当時の金融庁が求めていたことでした。

柳:「面白い人」って具体的にはどんな人ですか。

菅野:本当の意味で地域や事業者を助けたいと思っている志ある金融マンですね。なかなか見つかりませんが。

柳:それを総称して「面白い」と。

菅野:そうです。「時には経営よりも現場を優先させる」そういった方を応援したいと思っていたので。頼まれたことばかりではなくて、地域の本当の課題を、悶絶しながら、七転八倒しながらも解決していこうという方を応援したいなと。

日下:柳さんはビジネスで元々幅広いネットワークをお持ちなので、それを紹介してもらっているうちに面白い人が現れたんですね。

菅野:そうですね。普通は「面白い人がいますよ。会わせてあげますよ」といっても、頑張って一時間で3人ぐらいだと思うんですが、柳さんの会の場合には2時間いるだけで50~60人をご紹介いただけるので。名簿を毎回大事に持って帰って。あれはもう……。

日下:財産ですね。

菅野:代えがたい財産です。名刺交換もさせていただけているので、公的セクターから「誰か紹介してください」となった時には今も柳さんの名簿を見ています。

日下:柳さんから見た菅野くんの印象はどうでしたか。

柳:非常にフットワークがいい。あとはとても実直なので、この人だったら紹介しても間違いないと思っていますね。結果的に進まなかったり、頓挫したりはあるかもしれないけれど、とにかく実践するので相談窓口には一番だと感じています。会合で菅野さんの話を聞きつけると、東京事務所長さん達なんかがみんなわっと名刺交換をしに行っていた時期もあって。会に集まる人は役職を超えた個の部分が非常に強くて、どんどんつながっていきますからね。

菅野:そうですね。ご紹介いただいて「この人はこういうことを思っているのか、面白いな」と思っても、すぐにその人と何かやるということではなかったりします。でも最近はそうやってつながっておくこと、「お互い知っているな」と頭の片隅にあることが価値だと思っています。いつかタイミングが来た時に「この人」と動き出すかもしれないので。


利他ではじまり、ひろがるネットワーク

柳:先週、大阪で地域金融変革運動体があって、その時に遠藤さんが『思いがけず利他』という本の話をされていたんですね。「利他の話」、「利他の心」などとよく言いますが、遠藤さんは本を引き合いに出しながら、利他というのは計算しながら行うことではないし、かといって全く何の見返りも求めず、何もせずということでもなくて、何かをやっていたら何かがいずれ返ってくる。そういう思いがけない話ではないのかと。利害得失で考えている人も多いですが、それだけでは飲み込めないことがたくさんありますからね。

菅野:私もきょうのポイントは利他なのかなと。こういう機会をいただいて自分の活動を振り返ると、結局、知らず知らずに利他の活動をしていたなと。それが自分の中で快感になっているのだろうなと感じました。

日下:今、何かできることがあって、それが実を結ぶのは半年後なのか、5年後なのか全く分からないけれども、利他の総量が多ければ、結果的には一定の時間で芽が出てくるよと。そうなると最初の利他の行動が芽の出る大きさや質を決めるわけです。それをならしてみると結構な頻度で出てくる。

菅野:確かにそうですね。そういった活動を仕事としてできたのは本当に幸運でした。遠藤さんから「地域の実情を把握してできることをしなさい」と言っていただき、チームをつくらせていただいて。2年目からは地域課題解決支援室で、日下室長の下でやらせていただけた。このような活動は霞が関ではあまり事例がないものだと思うんですよね。金融庁の利益だけではなく、直接地域とつながって、時にはプレイヤーにもなる。そういう活動ができたことは、今の役職になるために必要な体験であり、本当にありがたかったです。

日下:そうは言っても、ビジネスの世界では利他ってなかなかできないですよね。柳さんはどういう軸を持っていらっしゃるのですか。

柳:京都信金の増田さん(※)のリレーションシップインパクトの話がありますよね。商売なのでしっかり飯を食っていけなければ駄目だけれど「飯を食うためにどうしていくのか」という話であれば、「いかにお客さまに貢献するか」を追い求めていけば、おのずと数字がついてくると。私たちが取り組んできたことを、ある意味で科学的、合理的に説明してくれたのがこのリレーションシップインパクトで、社内でもよく話しをしています。例えばお客さまとの関係性において少なからずコロナの影響はあって、Web会議などではどうしても質的に落ちてしまう。だけれど、お客さまと対話をして、課題を見つけるやり方にはいろいろあると思うんです。なので、先週の営業会議でも「お客さまに接していくことよりも重要なことは何もない」と言いました。どうしても動かせない会議などがあって、お客さまとの日程調整から外すということがあるかもしれませんけれど、基本的にはお客さまとの接点よりも大事なことはないので、「それ以外のことを優先順位に挙げないでください」と伝えました。
※元京都信用金庫 理事長 増田 寿幸氏

菅野:すごいですね。

柳:そこまで徹してお客さまを見ていくと、本当に現場が好きな人が主人公になれるし、橋本さん(※)達がいうような社内政治、あるいはうまく取り繕ってしまおうという人は脇役でしかいられなくなります。結局は「そうは言っても商売だから」という基準をどこに置くかなんですよ。置く所を間違えると「商売でしょう」、「数字でしょう」、「きれい事を言わないでくださいよ」という話になってしまう。だからこそ「お客さまとのこと以上に重要なものはありません」と言い切ることが大切だと思います。
※共同通信編集委員 橋本 卓典 氏

日下:それは本当にそうですよね。他方で菅野くんは公的な長という立場ゆえの難しさがあると思います。ビジネスではお客さんにどんどん、深く入っていけばいいですが、公的な立場では「より平等に」といった平等バイアスがかかりますよね。そこの難しさはどうですか。

菅野:10年くらい前は平等性が基本だった思うのですが、地方創生の時代になってからは「アイデアを出した所がお金を頂ける」という形になり、国と地方の関係性が代わりました。そうなると事業を企画してチャレンジしなければならないんですよね。新しい企画を民間の方と進めていると、官民連携などにおいて国が「結果として不平等でもいい」という状態を応援しているんだなと実感します。これは役所時代から感じていました。

日下:平等よりも、もっと深く入っていくことを大事にしているということですか。

菅野:そうですね。私たちの町のように残された時間が少ない所は、事業を創出して雇用をつくることが一番大切だと思うんです。今の国と地方との関係を活用すると「お金が集められるのはこの企業のこのアイデアだったので」というご説明もできるので。

日下:そうなるといよいよ町長のあり方も変わってきますね。

菅野:そうかもしれないですね。

日下:まさに町の社長になっていく。

菅野:最近、選挙に勝つための行政と、本当の意味で町が活性化する行政はトレードオフではないかと思っています。何もしなければ敵をつくらないので、多分選挙は強い。一方、いろいろ実行すると少数の「これに反対だ」という方が積み重なっていきます。ですから選挙では難しくなるんですけれども、私は後者のほうに振り切っていこうと思っています。私たちの町は今5000人ぐらいですが、20年後には2000人ぐらいになってしまうので、今すぐ何かをしないと。


組織変革のスピードと目線合わせ

日下:振り切った菅野くんから柳さんにご質問を投げていただけますか。

菅野:たくさんあるんですが。まず、今は振り切っていろいろしていて、お金も雇用も数字で積み上げられています。1億8,000万円持ってきて、雇用が30人になってという感じですね。ただ「改革のスピードが早いと良い改革も悪く見られてしまう」ということをよく言われて、迷っています。柳さんは経営の先輩として、鈍化させる方向でのスピードというものは意識していますか。

柳:今振り返ればですが、最初はやはりスピードを非常に重視していました。

菅野:最初はですか。

柳:スピードって変わっていくためにはとても大事な要素でもあるので。ある程度の結果を出した後に方針を出して、徹底的に進めていきました。中には合わなくてやめていく人もいますが、残る人も、入ってきてくれる人もいます。ところが、ジンテックのような小さな会社でも、全てにおいて直接民主制が取れるわけではありません。ある程度ストライクゾーンが合っていたとしても、ある時「もっとゾーンを合わせないと駄目だな」という時がきます。その時が来たら、皆でより理解を深め合わないと、そこから先は進まなくなってしまう。最初は荒療治でも何でも進んではいきます。だけれど、1人でやるわけではなくて組織でやるわけですから「何となく理解してくれた。さあ、ここから」という時にはより深い理解をしてもらわないと駄目だと思います。

菅野:そうすると、そこで時間をゆっくり。

柳:かける。

菅野:そういうフェーズが来るということですね。

柳:来ます。それが浸透し始めると、おのずと自走する社員、職員が出てきますよね。今はどうですか。少し斜に構えていると言ったら言い過ぎかもしれないけれども、「菅野さんはどこまでやってくれるのかしら」、「お手並み拝見」という人がまだ何割かはいるはずです。だから、その人たちが共感してくれて、少なくとも邪魔をしないというか、他人事でない感じが出てくるといいと思います。積極性については元々が内気な人もいますから、仕方がありません。内気だって協力的な人もいれば、声が大きくてもいい役は自分で取って、良くない役の時は積極的でないといったむらのある人もいますし。

菅野:考えてみると、課によってスピード感が非常に違いますね。ストライクゾーンが合っている課は、提案を持ってきたりして「自分の仕事はお金を取ってくることだ」と思っていますが、ストライクゾーンが合ってないと感じるところは、待つようにしています。「この人は変わったな」と感じる時はありますか。

柳:ありますね。社員が自分から能動的に考え始めると、変わったなと感じます。


現場を知ることが全てのはじまり

菅野:先ほどヒントを頂いたかもしれませんが、経営で一番大事にしていることは何ですか。

柳:一番大事にしていること。何でしょうね。幾つかありますが、一番と言われると……

菅野:幾つかでも。あまりそういう立場をやったことがなかったので。

柳:やはり現場を知ること。常に現場を分かっているというか。だけれども現場の細かいことはあまり言わない。でも知っているよと。民間の会社は顧客に支持されなければ絶対に駄目ですが、製品やサービスの力がある程度強くなっていくと、顧客を見失いがちです。強くなると「こちらの言う事を聞きなさい」となっていってしまう。極端な例え話をすれば、JRは「当社の時刻表に従ってください」と。あなたの都合は聞けないけれど、そこはもう仕方がないと。けれども、顧客の声を拾うということで言えばJRだっていくらでもできるはずです。顧客から支持を得なければならないという意味で、現場のことをしっかりと理解し、それを経営の、議論の、組織運営の中心に据えることが必要だと思います。それから、現場を理解している人は現場が好きな人が多いので、そこをきちんと見ていてあげる。一緒に同行するとかですね。

菅野:なるほど。私も現場を意識してやっているので、自信をもらえた感じがします。ある事例ですが、長年、ブランド牛を作りたくてもつくれなかったのですが、担当者が「現場の牛の関係者がこういうことで反対している」と言っていたんですね。ただその「こういうこと」が大した話ではなかったので、本当にそんなことを言うのかなと思って、休日に業者さんに話を聞きにいったんです。そうしたら「いやいや、私はそのようなことを言っていませんよ」と。それ以降、その人は私にゆがんだ情報を上げなくなったんですが、やりすぎだったのではないかと感じているところもあって……。

柳:ですが、その事業者さんが言っていることが真実なわけですよね。

菅野:そうです。真実です。

柳:もし意図的にゆがめていたら私だったら烈火ごとく怒鳴りつけますね。もしただ間違っていたのなら「ここは間違っているから、次からはそうしないように」と話します。町長がいろいろな所に行って話を聞いているということになれば、そういう人たちは「やばい」と感じますし、適当な小細工はできないことが分かるので、非常に重要なことだと思います。

菅野:少しずつそういう状態になっているかもしれません。

柳:町長が時折、町民や事業をされている人の所に足を運ぶことは極めて自然なことですし。

菅野:少しほっとしました。就任当初、会議の場などは、町長にレクチャーするのは課長クラスからという慣習であるため、得られる情報のほとんどは彼らからの情報でした。しかし、私は、年代的に近いこともあって、ランチなどで係長の方と対話をする機会も多いんですね。そうなると、課長さんはやりづらいかなと思うのですが、やはり現場に近い係長の話を聞かなければと。最近は課長会議にも担当者が参加できるようにしたので、報告にとどまらずに現場を踏まえた対話に変わってきました。

日下:いいですね。

菅野:ありがとうございます。やはり現場ですね。余談ですが私も道の駅などを運営する地域商社の社長になって。

日下:まちづくり会社ですね。

菅野:はい。私が雇用の権限を持つところは役場とそこだけなのですが、将来的な負担も考えると役場がいきなり人を増やすのは難しい。でもその会社だと増やせるので、会社を大きくして、活用できるようにしたいと考えています。そこで、私も現場に入って道の駅でレジ打ちをしたり、レストラン部門の方と一緒に働いてみたりしたんです。一緒にやってみたことで意見を聞いてもらいやすくなりました。例えばテーブルを拭く回数が少ないと伝える時にも、現場に入って、実際に見て、理解をした上で話すと彼らも納得できるのかなと。現場に入ると組織も動かしやすいし、指示が適切だったかどうかも分かりますよね。

日下:そこで働いている人にとってはそれが日々の暮らしですし、町民の生活を等身大で見ていくことはとても大事なことでしょうね。

菅野:さきほど柳さんがおっしゃった、「お客さまとの対話を第一にするべきであって、それより大切なものはない」というのは本当に重たい言葉で、私も職員にしっかり伝えたいと思います。残念ながら現場に基づかない事業というものも多少はあって、予算があるからといって素人が始めた企画はたいてい失敗しています。ニーズに基づかないものはダメですね。今は予算化するかどうかの判断においては、必ず「ニーズベースで仕事をしよう」と言っているので、変わってきたかなと感じています。少しずつですけれど。


まちづくりの理念

柳:菅野さんの中には、町が近い将来に2000人になってしまうという、その強い危機感があると思うんです。一方、理念としては西川町長としてどんな町づくりをしたいのかなと。その辺りを聞いてみたいですね。

菅野:金融庁時代、柳さんを含めていろいろな方の紹介でつながりができました。でもいまはもう金融庁の職員ではありません。それなのに当時のつながりが続いている、あるいは変わらないんですね。なぜお付き合いいただけるかというと「面白いから」「やり切るから」らしいんです。あとはチャレンジですね。なるほど、やり切る姿とチャレンジは共感を頂けるのだなと。ということは「こんな小さな町がチャレンジして、これをやり切ったのか。すごいな」と思われれば、おのずと共感が生まれるはずです。そういった計測できない共感や熱意を全面に出してまちづくりをしていきたいと思っています。そのためには、まず職員が共感を得られるうような動きをするために、意識改革を行い、これを面白いと思ってくれなければならないと思います。これも、金融庁時代に教えていただいた「やりたいことをする」ということを活かして、人事異動もできるだけ希望どおりにと考えています。

日下:いいですね。

菅野:例えばこんな人がいます。今はワクチン接種の仕事をしているけれども、実は「西川町は山菜王国と言うわりに収穫量が下がっている」ということに大きな危機感を持っていて、本当にやりたいことはそっちだと聞きました。そういう方には農水省の補助金を得るような場面でお知恵を拝借したり、山菜が採れる農地を復活するプロジェクトの先生として指導してもらったりしています。

柳:やりたいこと、あるいは詳しいことをもっとやっていきましょうと。

菅野:はい。

柳:それはいいですね。

菅野:やりたいことや特技を人事異動や業務運営で柔軟に活用していきましょうと。金融庁のオープン政策ラボにヒントを得てやっています。

柳:土日にやっていると「それは勤務なのかどうか」とかなっていかないですか。

菅野:本当は勤務時間にしたいところなのですが、ご本人が「労働にしなくていいです」と。このため、公務員としての残業代ではなくて、町の大切な宝としてアドバイザー料を町からお支払いする形にしています。届け出さえ出せば、国家公務員でも大丈夫なので。


選挙によって人がみえ、つながりが生まれる

柳:選挙についてもお伺いしたいと思います。町長選に出るかもしれないということを、ちらっと聞いていたんですよね。

日下:年明けぐらいでしたね。

柳:その時「僕はあまり賛成ではないけれどな」と言ったんだけれど、でもチャンスをつかむかどうかは自分が決めることなので。「ここで」と決断したんだろうなと思ってみていたら、同級生が中心となって応援しているSNSが盛り上がっていましたよね。それでも少し苦しい選挙だと聞こえてきたので応援に行かせてもらいましたが、あの時、町を本気で変えていこうという人々がいて、「この人だ」という人をみんなで応援しているのを実感しました。あの運動、うねりは今でも続いているんですか。

菅野:そうですね。「選挙に勝つ」という共通の目的で集まったメンバーで、もともと知らない人もいたんですが、その後の活動の熱源、原動力にもなっています。だから今は選挙をやって良かったなと思っています。当事者は大変ですけど、町のためには選挙は絶対にやったほうがいい。老若男女がつながれて、特技やキャラクターを知ることもできました。

柳:ふたを開けてみたら大差で勝ちましたが、対抗陣営の人たちもいたわけで。その人たちとどうやって一体感を出していくかは、民主主義の根幹に関わる一つの課題だと思います。町全体で共感しながら、一つの理念に向かっていくことが大事だと思いますが、その辺りの苦労はどうですか。反対陣営の人たちとは、今はどのような関係ですか。

菅野:そもそも政党色で嫌いだという人がいるんですよね。40年間自民党が負け続けていたので、それで距離を置く方はいらっしゃいました。ただ、それ以外はあまりにも短期間に必死にやり過ぎて、反対派がだれなのかあまり知りませんでした。もちろん、後援会は知っていますが。でも私自身は詳しく知らず、応援してくれたかどうかに関係なく、町政をすすめていきたいので、今も後援会名簿は見ないまま活動しています。その上で、なるべく多くの人と対話をしようと思っています。誰かと誰かをつなぐことで課題解決になったり、困っている人を助けられたり、事業が生まれたりもするので。あまり気にせずに動いていますね。


活動の原動力はどこにあるのか

日下:菅野くんの元々の原動力はどこにあるのですか。

菅野:原動力……。少し前の話になりますが、2018年の初めのころ東北財務局におり、高松市で若手公務員によるシンポジウムが開催されていました。私も参加したのですが、会場にいる人たちは特に自分の利益にはならないのに「他の人とめぐり合わせしましょうよ」と言う趣旨の場でした。行くまでは何のためにやっているのか理解ができなかったのですが、行ってみて、この人たちは本当に日本を良くしよう、地域を良くしようと思って汗水を垂らしているんだということがわかりました。こういう姿が感動を呼ぶんだ、人の行動を変える人とはこういう人なんだと思いました。自分のためではなくて、日本のため、地域のために動いているその美しさを見て、私もそのような活動をしていきたくなりました。結果、プレイヤーになったり、クラファンのプロジェクトマネジャーになったり。地域でイベントをやって全額寄付したりもしました。そういう風に動いていると共感されたり感謝をされたりするんですよね。あとはチームで動いて得た喜びですね。それまで関係がなかった人がチームとなって、一つの目標に向かって活動して、目的を達成する喜びはやみつきになります。さらにそれぞれ自走して、地域の他の人を巻き込んでいく姿を見た時には、こういう姿が理想だと強く思いました。ですので、他の人のために汗をかいて、自分も成長して、目標の達成や、やり遂げる快感、それこそが原動力になっていますね。

日下:利他の心から出来上がっていったネットワークやチームで何かを成し遂げていく。そこが原動力になっているということですね。

菅野:自分に金銭的なメリットが全くなくても、そこで生まれた信頼感や実体験は必ずプラスになりますし、積み重ねていくと自分の経験を人に伝えられるようになります。例えば西川町でクラファンをやったことがあるのは恐らく私だけなので、それを教えることができました。意識を高めて、職員と一緒に経験を積み上げていきたいと思っています。みんなで何かを成し遂げるということが好きなんですね。柳さんも同じではないですか。

柳:そうですね。

日下:利他というところで。

菅野:同じ質問(原動力)をお二人にも伺っていいですか。

柳:僕は「情けは人のためならず」ですね。利他と近いところはありますが、必ずしもそれだけではなくて、生きる知恵の話です。「情けは人のためならず」とは自分のことで、「情けは人のためならず、巡り巡ってわが身のため」なわけですね。でも、利他とはとても近いところがあるし、自分1人だけが頑張っていても解決できないから。何だかんだ言っても、結局、利他の心のほうが周りも応援してくれるし。

菅野:それは本当にそう思います。美しく見えるのですよね。

柳:あとは先ほどの日下さんの話ではないけれど、タイミングは図れなくとも、幾つも放っておけばどれかが戻ってきて。

日下:一定の確率で。

柳:そうです。「よし、今度はこういう縁が戻ってきてくれた」とか、「あれ、今回は10年ぐらいかかって戻ってきたな」などという感じです。

菅野:確かにそうなんですよね。利他のネットワークではとてもスムーズに話に入れますし、対応の質や対話の質も違うように感じています。自分が紹介したこの人とこの人が「つながりました。ありがとうございました」という時にはとても幸せですし。日下さんの源泉はなんですか。

日下:源泉というか…。現実問題として地域には自分がやりたくてもできない人のほうが多いと思うのです。動ける人のほうが少ないんですね。ということは、自分が動くことによって、動けない人まで動かしてあげているということになります。みんなが動けるわけではないからこそ、動ける人が動くことによって、多くの人が自分が動いたような気になる。それこそ菅野くんに一票を投じた人は動けない人なのだけれども、一票を投じた人が動いてくれることによって自分が動いたような気になれる。これが大事だと思います。だから、動ける人が動けばいいと考えています。

菅野:なるほど。

日下:多くの人たちは気持ちがあっても、現実には動けないんですよね。

柳:民主主義、地方自治といった意味でも西川町はいいモデルケースになり得ますよね。経済はもちろんですが、選挙で一票を入れることの価値をはっきり示してくれるといいなと思います。「自分はこういうことならできるけど、ここまでしかできない」。そういう思いを菅野さんに託すのだけれど、自分ができることも必ずあるはずなので。入れっぱなしの一票ではなくて。

菅野:そうですね。西川町は山菜王国なんですが、山菜は首都圏に送っても2~3日で劣化してしまいます。だから、加工品を作りたいと思っていたんですが、おばあちゃんたちは自分たちが作っている物の価値を知らないんですよね。東京に持っていったら売れるのに、謙遜してしまうところがあって。なので、先日「ONSENガストロノミー食べ歩きウォーキング」と銘打って、私たちが普段食べているようなものを観光客の人に食べてもらうイベントを開催しました。町民の方には対価をお支払いして。そうしたら、「こんなものがおいしいと言ってもらえるのね」と自信がついた様子でした。町の価値、あるいは自分が作っている物がこんなに喜んでもらえるんだということは家の中に閉じこもっていると分からないんですよね。選挙を通じて、「このおばあちゃんはこれを作っている」、「ここのおばあちゃんはあれを」ということが分かったので、一票の話とはちょっと違うかもしれませんが、そういう風にしていきたいなと改めて思いました。町の人が言っても「そんなわけはないだろう」となりますが、外の人が言うと「そうか」となるのが不思議です。

日下:外からの声は大事ですよね。

菅野:大事だなと思います。日下さんにも柳さんにもお越しいただけると嬉しいです。


価値創造の体験をつくる-つなぐ課-

菅野:今回この企画を頂いた時に、「ワンチームで未来のために」、「人をつなぎ」というジンテックの考え方は自分と本当に同じだなと改めて感じました。私が今までやってきたこと、あるいは熱源の源泉もワンチームで成し遂げるということの快感や、人をつなぐことです。4月から「つなぐ課」というものをつくろうと考えていて、今は準備室の段階です。

日下:いいですね。

菅野:それぞれが自然にやれれば、そのようなものをつくらなくてもいいのですが、最初は課をつくって。

日下:象徴的にいいですよね。そういう所をつくると、みんながその意味を分かってくれるから。

菅野:外の人と動くことで、今まで自分たちが知らなかった、できなかったことができるので、新しい価値創造の体験をいろいろな人にしてほしいと思っています。私はおかげさまでいろいろ体験してきたので、自分のネットワークをまずはつなぐ課の職員が引き継いで、そこと町民の方をつなげたい。そして、できることをしていこうと。新しい価値をつくっていきたいと思います。

日下:つなぐ課長はもう決めているのですか。

菅野:若い人ですか?

菅野:いえ。課長クラスで一番面白いことをやっている人で、キャラクターで決めたところが大きいです。

日下:専属で?

菅野:専属の課長です。

日下:素晴らしい。それは楽しみですね。これからの活躍も応援しています。

※感染対策を十分行った上で対談・撮影しております。


【対談パートナー】
菅野 大志
山形県 西川町長

1978年生、山形県西川町生まれ。2001年 早稲田大学卒業。2001年 東北財務局 入局。2006年 金融庁監督局銀行第一課、2008年 東北財務財務局金融監督第一課、2018年 金融庁総合政策局地域課題解決支援チーム、2019年 金融庁監督局総務課地域課題解決支援室、2021年 内閣官房まちひとしごと創生本部事務局、2022年 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局。一貫して地方創生の政策を担当し、その後、2022年4月より山形県西川町 町長へ転身。
自身がボランティアで主宰する公務員と金融機関職員のコミュニティー「ちいきん会」はFacebookメンバーが2600人を超える。

【ファシリテーター】
日下 智晴 氏
株式会社ジンテック CINO

1984年神戸大経営卒、広島銀行入行。支店勤務後、資金証券部で債券ディーリングを担当。その後5年間の法人営業を経て97年総合企画部。事業の再構築や新規開始、取引先の事業再生、資本調達、M&A、IRなどを幅広く担当。融資企画部長に転じ、事業性評価手法を確立した後、大阪支店長、リスク統括部長を歴任して広島銀行を退職。15年11月金融庁に入庁し、初代地域金融企画室長。
金融仲介機能の改善や地域金融の改革に取り組み、21年9月金融庁を定年退職。21年10月より日下企業経営相談所を再興、代表就任。また、ジンテックCINOにも就任。

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